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広島地方裁判所尾道支部 昭和26年(ワ)130号 判決

原告

右代表者法務大臣

犬養健

右指定代理人検事

西本寿喜

長谷川茂治

同法務事務官

吉田豊

同大蔵事務官

藤原明義

服部賀寿男

米沢久雄

枝広悟

信岡正夫

尾道市土堂町二百九十七番地

被告

一誠合資会社

右代表者無限責任社員

宮地清蔵

右訴訟代理人弁護士

森井孫市

右当事者間の昭和二十六年(ワ)第一三〇号貸金請求事件に付当裁判所は左の通り判決する。

主文

被告は原告に対し金七拾壱万参千六百弐拾六円を支払わねばならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め請求の原因として

(一)  訴外宮地清蔵は被告に対し昭和二十四年三月一日より昭和二十四年九月三十日までの間に七回にわたり合計金一百五十四万八千一百八十四円四十銭也を弁済期日及び利息を定めず貸付け被告はこれに対し昭和二十四年四月一日より同年同月三十一日までに別表の通り金八十三万四千五百五十八円二十一銭也を返済昭和二十五年十二月十二日現在金七十一万三千六百二十六円十九銭也の貸付金残があるもその後被告はこれを支払わない。

(二)  訴外宮地清蔵は昭和二十五年度所得税金二千四十八万五千四百五十五円六十銭利子税督促手数料延滞加算税を滞納したから尾道税務署長収税官吏大蔵事務官吉田富士雄は国税徴収法第二十三条の一第一項の規定に基いて昭和二十五年十二月十二日被告に対する通知により前記債権の差押をした。

(三)  尾道税務署長は国税徴収法第二十三条の一第二項の規定により滞納者宮地清蔵に代位して被告に対し右債務を昭和二十六年二月二十日までに支払うように催告をしたにも拘らず今に至るもその支払がなく滞納者宮地清蔵も滞納税金の納付をしないから原告は前記請求の趣旨に記載する金額につき支払を求めるため本訴に及ぶ

と陳述し被告主張の答弁事実に対し、

(四)  仮りに本訴債権に付被告主張の如く現金の授受がなかつたとしてもそれは被告主張の求償債権を目的として原告主張の日時に準消費貸借となしたものである。

(五)  本件債権が被告と訴外宮地清蔵間の特約により未だ弁済期が到来しないものであるとの主張を否認する。被告は右特約の事実を乙第一号証(契約書)を以て立証しようとするものであるが、被告会社は訴外宮地清蔵がその経営の実権を承握している、いわゆる同人の同族会社であることに照すと、右書面が本件差押以前の確定日付のある書面であればともかく、そうでない限り右宮地と被告会社間において本件差押後、ほしいままに差押以前に日付を遡らして、右乙号証の如き書面を作成することは、通常容易に行いうることがらであつて、右乙号証の記載の信憑力は極めて薄弱であるといわざるをえない。加うるに、被告会社は右債務を昭和二十四年四月一日から同月三十日までの間に別表の通り合計金八十三万四千五百五十八円二十一銭の内払をしているものであるが、右各内払の当時被告会社は欠損状態にあつたものであるから、右乙号証に記載してある如く利益の生じたとき支払つたものでないのであるから、右書証の措信しえないものであるのはもとより、被告の前示主張が失当であることは明白であると陳述し

立証として甲第一号証の一乃至十七甲第二号証の一、二、甲第三号証を提出し証人信岡正夫、同大津健治の訊問を求め乙第一号証の成立を認めて立証趣旨を否認し乙第二号証は不知と答えた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、原告主張事実中(一)の原告主張の如き貸金(消費貸借)債権の存在することは之を否定する。(二)(三)の処分があつたことは認めるが税額を争う。もつとも被告は右訴外者の預金を担保として大阪銀行尾道支店より九十万円の借入をしているがその支払ができずに昭和二十四年三月三日七十万円その翌四日二十万円を右訴外者の預金を以つて被告が借入れて居た九十万円の借金の弁済に充当された事実があり、その内払により訴外宮地清蔵に弁済してその求償債権全額が存在するのである。なお被告会社は宮地清蔵より六十四万八千百八十四円四十銭の借入をした事はあつたがその後双方合意の上昭和二十四年三月より同年九月三十日までの間数回に弁済して消滅して居るものであつて現存しない。且つ被告会社と訴外宮地清蔵との債権は双方の特約に基き未だ弁済期日到来して居らぬものであると述べなお原告主張の準消費貸借の成立の事実を否認し立証として乙第一、二号証を提出し証人大田垣麟次、同永俊敏正と被告代表者本人の訊問を求め甲号各証の成立を認めた。

理由

先ず原告主張の(一)の事実の関係について考えると成立に争のない甲号各証と証人信岡正夫、同大津健治の各証言を綜合して被告会社が訴外宮地清蔵により昭和二十四年三月以来継続的に金員を借用し来りその借入詳細は(1)同月三日七〇一、九六〇円(2)翌四日二〇〇、二三二円四〇銭(3)同年四月一日より同月三十日までに五六七、九六五円(4)同年五月六日一、〇〇〇円(5)同年六月七日五〇〇円(6)同月二十五日三、〇〇〇円(7)同月三十日五〇〇円(8)同年七月二日三、〇〇〇円(9)同月十五日六五、〇〇〇円(10)同年八月十三日一四七円(11)同月二十五日四八〇円(12)同年九月二十九日四、〇〇〇円以上合計して、結局原告主張の一、五四八、一八四円四〇銭を弁済期日及び利息を定めずして借受けたことが認められる。成立に争のない乙第一号証の記載と証人永俊敏正の証言、被告代表者本人の供述中右認定に反する部分は之を措信しない。右貸金に対して被告会社が同年四月九日一九六、〇〇〇円、同月十一日九〇、〇〇〇円、同月十二日一五〇、〇〇〇円、同月十三日三八八、四五八円二一銭と、一〇、一〇〇円以上合計八三四、五五八円二一銭の弁済を為したことは原告の自認する所であるが、被告は前記貸金の(1)の内七〇〇、〇〇〇円(2)の内二〇〇、〇〇〇円を夫々除いた六四八、一八四円二一銭の弁済を為した外に右七〇〇、〇〇〇円と二〇〇、〇〇〇円に付いても内入弁済(額は主張せず)を為したと主張するものと解するがこれを認めるに足る証拠はない。弁済の充当について他に特別の主張のない本件においては右認定の事実と甲第一、二号各証の記載の体裁を綜合するときは原告自認の弁済は前記(1)の貸金全部と(2)の貸金の内入となるものと認められるから結局(2)の残余の債権(3)乃至(12)の債権合計七一三、六二六円一九銭が残存するものと解する。被告は右債権は訴外宮地清蔵と被告会社間の特約により弁済期が未だ到来しないと主張するけれども乙第二号証は成立に争があり証人永俊敏正の証言と被告代表者本人の供述中右主張に符合する部分は証人信岡正夫、同大津健治の各証言に照して之を措信せず他にこれを認めるに足る証拠がない。原告主張の(二)(三)の事実は税額の点を除いた他の事実は当事者間に争なく税額が原告主張通りであることは弁論の全趣旨によつて認められるから他の争点の判断を用いずして被告は原告に対しその請求通りの金員を支払うべきであるから原告の本訴請求を全部容れ訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 国政実雄)

別表

内払年月日 金額

昭和二十四年 四月九日 一九六、〇〇〇円〇〇

四月十一日 九〇、〇〇〇、〇〇

同月十二日 一五〇、〇〇〇、〇〇

同月十三日 三八八、四五八、二一

同月同日 一〇、一〇〇、〇〇

合計 八三四、五五八、二一

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